日本史の実行犯 ~あの方を斬ったの…それがしです~蘇我入鹿を斬り伏せ大化の改新をもたらした男~
日本史の実行犯 ~あの方を斬ったの…それがしです~
皇極天皇の皇居である「飛鳥板蓋宮(あすか・いたぶきの・みや)」の大極殿(だいごくでん)では「三韓(みつの・からひと)の調」という儀式が行われることになっていました。これは三韓(新羅・百済・高句麗)からの使者が日本に対して調(ちょう=貢ぎ物)を進上する儀式で、蘇我氏をはじめとした豪族たちが出席することになっていました。
子麻呂は、入鹿に先がけて宮廷に控えていたと思われます。
入鹿は降りしきる雨の中、宮廷に訪れました。入鹿は非常に猜疑心の強い人物で、常に剣を帯びていたそうです。そこで鎌足は俳優(わざひと=宮廷に仕えるお笑い芸人)を使って、宮廷に入る入鹿から剣を預かるように一策を講じています。この策に引っ掛かってしまった入鹿は、笑いながら俳優に剣を預け、大極殿に入り運命の座に着きました。
儀式が始まると、事前の計画通り、石川麻呂が御座の前に進んで三韓の上表文を読み上げ始めました。
それを合図に中大兄は、12カ所ある通門を出入りができないように一斉に固めて兵を集めました。
中大兄は長槍を、鎌足は弓矢を持って大極殿の脇に隠れました。そして、鎌足は箱の中から二本の剣を取り出させ、刺客である子麻呂と網田に授けました。
「抜からず、素早く斬れ!」
鎌足が2人に声をかけますが、武勇で知られたはずの子麻呂たちは、緊張と恐怖を隠しきれません。
子麻呂たちは、襲撃の前の腹ごしらえで飯を食べようとしましたが、緊張のあまり全く喉に通りませんでした。そこで飯を水で強引に流し込もうとした子麻呂たちですが、恐怖のためすぐに吐き出してしまったそうです。それを見た鎌足は、非常事態に慌てたのでしょう、2人を責め励ましたと言います。
刺客たちが落ち着かない中、上表文を読み終えようとしていた石川麻呂は慌てていました。
「子麻呂たちは、なぜ出てこない…!」
上表文を読み終えるまでに、刺客の子麻呂たちが飛び出てきて入鹿を斬るという計画だったのに、一向に子麻呂たちは出てこないのです。
それもそうです、大極殿の脇で飯と水を吐き出していたので、出てくるわけがありません。
すると、この状況に焦った石川麻呂にも異常が生じ始めました。全身から汗が吹き出し、声が乱れた上に手が震え始めたのです。それを見た入鹿は怪しみ、こう問い詰めたと言います。
「なぜ、震えているのだ」
石川麻呂は、この窮地を脱しようと次のように言い訳をします。
「天皇にお側近いので、恐れ多くて汗が流れてしまいまして…」
入鹿の質問に対する答えになっていないあたりに、石川麻呂が取り乱していた様子が見て取れます。
この時、刺客に指名された子麻呂たちはというと、入鹿の威圧感に押され全く動けない状態でした。
作戦は失敗か、と思われたその時でした―――。
「やあー!!」
大きな掛け声と共に大極殿の脇から飛び出したのは、中大兄でした。その突撃に勇気をもらったのか、子麻呂たちも共に飛び出し、剣で入鹿の頭から肩にかけて斬り付けます。
驚いて席を立とうとした入鹿に対して、続けて子麻呂が剣を揮い、入鹿の片足を斬り払いました。
足を払われて転んだ入鹿は御座の前にたどり着き、皇極天皇に訴え掛けました。
「私に何の罪があるのか! そのわけを言ってください!」
すると、天皇は驚いて中大兄に問いただします。
「これは一体、何が起きたのだ!どうしてこのようなことをする!」 中大兄は平伏してこう答えました。
「入鹿は皇子たちを全て滅ぼし、王位を傾けようとしています!入鹿が天子に代わることなどできましょうか!」
その答えを聞いた天皇は宮廷の奥へ入っていきました。
ひとり取り残された傷を負った入鹿―――。
その止めを刺した主たる武人が、子麻呂でした。
入鹿の首は落とされ、栄華を極めた蘇我氏の族長はあっけない最期を迎えました。
この時、胴を離れた入鹿の首は、鎌足を追い掛け回したという逸話が残されています。